物語を作る上で、読み解く力「分析力」が必要となります。
作品を「作り手の視点」の感想を読むことで、作り手としての視点を鍛えるシリーズ。
今回は、アニメ『幼女戦記』の全話を分析した総括をします。
ちなみに原作は読んだことはありません。
※ネタバレあり
感想
最初にCMを見た時は、「幼女の戦争モノ」ということで、話題性の感じられる話だなと思いました。
しかも、残酷な感じの作品。個人的には残酷モノは好み。
また、幼女ということで、深みのある童話性もありそうで、強く期待してました。
幼女戦記の1話を見た時は、インパクトもあり、けっこう残酷な感じが出て良かったのだけど、その後は残酷さは弱まり、意外とライトな話が展開。
そこは、「思ったのとだいぶ違うな~」という感じで残念でした。
さらに前半は、けっこうダイジェスト的な感じで、ちょっと物足りなさも感じていました。
また、ギャグ色が強くなって、「これはギャグアニメなのか?」という気にもなったり。
しかし、ストーリー展開は次々と進み面白くみれましたし、キャラクターも面白かったし、ラストの方はバシッ!と決まりましたので、強く印象に残りました。
また、いろんなユーモアな部分もあり、楽しめました。ネットでも盛り上がりましたしね。
その後の展開も気になりますし、面白かった作品だと思います。
分析
それでは、技術的なポイントを総括してみます。
ストーリー
ストーリーは、次々と展開が進むのは良い点ですね。
ダラダラとしたストーリーでなく、次々と新しいことが起こり、視聴者を飽きさせません。
次に何が起こるのか、楽しく見れます。
しかし、ダイジェスト的な感じでテンポが早く、物足りさを感じるところがあるのがマイナス。
ストーリーを動かすためのメインとなるストーリーが中心で、サブストーリーがあったり、遊びのシーンがあまり無いので、深い感情的なドラマが弱かったです。
その点がもっとあると、ターニャのキャラクターを強く出ましたし、作品全体に深みが増し、面白くなったと思います。
まあその点は、原作の小説をキリのいいところで12話でまとめるために、構成が難しかったのでしょうね。
全体を考えると、どうしても詰めすぎに。
その点のフォローとして、遊びのCパートやミニアニメ『ようじょしぇんき』を入れたのだと思いますが。
主人公・ターニャのキャラクター
主人公・ターニャのキャラクターは、たっていましたね。
まず、特徴である「語り」が魅力の一つ。
特に、部下にハッパをかける語りは、毎回面白かったです。
原作では、もっと独白で語りまくってるのでしょうね。
また、セリフで、チョコチョコ雑学めいたワードを使ったりしてますね。
「イタリアの赤い悪魔」とか、「メアリー・スー」など。
知ってる人には、深みのあるセリフになってます。
そして、「顔芸」もターニャのウリですね。
「どうしてこうなった」といった失敗で、顔がよく歪みます。
また、バトルでは狂気にみちた顔なんてもありますね。
顔芸は、ある意味「おっさん感」が出る表現でもあります。
「中の人は、おっさんですよ!」という、忘れないための表現といえるかな。
もちろん、逆の「幼女感」も表現されています。
ところどころで、幼女らしい仕草が。本が届かなーいとか。
また、幼女らしい舌足らず声で、宣誓をしたりと。
ユーモアも交え、幼女感が出てました。
その他のキャラクター
ターニャ以外のキャラクターの表現は、弱かったですかね。
多少は表現できたキャラクターもいましたが、全体的には単調なキャラクター表現にとどまった感じです。
身近にいて、出番の多めの部下・ヴィーシャですらそうですね。
ストーリーを動かすシーンが多めで、キャラクターを表現するシーンが少なかったですから。
まあ、ドクトル博士は、けっこう強く出せたのかな。出番も多かったし。
幼女戦記のキャラクターの中ではインパクトがあり、だいぶ厄介なキャラクターなので、面白いキャラクターになっていますね。
道具の活用
幼女戦記では、けっこう「会議のシーン」が多めです。
なので、会議シーンはどうしても単調になりがちなので、何らかの工夫をしないといけない。
そこで、よく道具を使って工夫をしてますね。
よく使われたのが「飲み物」。いろんなところで使われています。
味がどうとか語ったり、飲み物を使って嫌味をいったり、酒がどうのこうのとか。
道具を使いシーンを工夫してます。
また、「タバコ」も使ったしてますね。
遊びのシーンで、タバコを嫌がるターニャが表現されたり、タバコの動作や煙などで動きをつくったりと。
また、道具というと「戦う道具」もそうですね。
いろんな武器や、乗り物が登場します。
異世界ならではの、魔法ペンダンドや魔法の乗り物もあったりしますし。
国ごとに違う乗り物は、面白いですよね。
そして、毎回何かしら、新しい武器や乗り物が登場。
新しい道具の登場で、アクションも盛り上がっていってます。
また、人間ロケットはインパクト大でしたね。
そういった点も、面白さを生み出してます。
そして、「物語を動かす道具」もありましたね。
アンソン・スーが娘のメアリー・スーに贈られた銃。
アニメでは語られませんでしたが、メアリー・スーと今後からむのでしょう。
このように、いろんな道具を活用してますね。
作品の設定とテーマ
サラリーマンのおっさんが部下に殺され、神の力で異世界に転生し、幼女として戦火の中に。
インパクトのある面白い設定になってますが、ただ面白いからこういう設定になったのではありません。
設定には、「テーマ」が表現されています。
テーマは、簡単にいうと「理性と感情」。
理性の塊であるルール大好きサラリーマンの主人公。
そんな主人公が、理屈だけで動いていない強い感情の渦の戦火のさなかに置かれてしまうと。
そこで、主人公は理性だけで生きていけるか。感情のない主人公が、感情を持てるかどうか。
といったことが基本。
そして、「神=宗教」もテーマにからんできます。
戦争というのは、自分たちの国が絶対に正しい!という元に、妄信的に進みますからね。
戦争と宗教がそういう点で似てます。
また、宗教がらみで戦争が起きることも、しょっちゅうですし。
また、神=宗教というのは、ある意味「感情の塊」みたいなもの。
理屈しか信じていない人には、だいぶファンタジーな話。
神であるミスターXをターニャに信じさせようとする姿は、ある意味「感情をもつように仕向けてる」ようにもとらえられます。
そして、「幼女」であること。
戦争では「人は、人間の皮をかぶった化物になる」と言われます。
その点にかけているのでしょうね。「幼女の皮をかぶった化物」と。
また、幼女=無垢な小さい子供というのは、ある意味「感情の塊」ですからね。
おっさんが、その無垢な存在に変身し、感情を体験していくという意味でもあります。
そのように、作品設定がテーマと強くからんでいるのが良いですね。
なので、自然と深みが増す話となります。
作画
作画も、だいぶ良かったですね。
あれほど激しい画でも、最終回まで保ちました。
しかも、戦争モノとなると、けっこうな人数が登場し大変なのに、それでも頑張ってクオリティ保っています。
特に、ラストのバトルは、プロの技が光った回でしたね。
激しいアクションは、見ものでした。
また、背景やもろもろのデザインも、重厚感があり良かったです。
おわり
全話を見終わった後に、視聴者は大切なことを忘れているのでしょう。
ターニャが、おっさんだということを!(笑)
それは、実は「大きな仕掛け」なのです。
日本が戦争していた時は、人々は戦争していることが当たり前と思っていました。
しかし、そんな人達も、以前はそんなことをしたいとも思っていません。
いつの間にか、国に騙され、そんなことが当たり前の世界と思わされた。
それと同じように、ターニャがおっさんだということを忘れる私たち。
幼女がどうだとか、萌えーとか、そんなことに一喜一憂する視聴者たち。
もう、戦争は始まっていたのです。もう、私たちは大切なことを忘れているのです。
そんな人間の愚かさをあざ笑う、仕掛けなのです。
なんてことでしょう。
そして、彼女は最後に言うのです。「では戦友諸君…、戦争の時間だ!」と。
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幼女戦記の基本情報
【感想分析】1話「ラインの悪魔」/2話「プロローグ」/3話「神がそれを望まれる」/4話「キャンパス・ライフ」/5話「はじまりの大隊」/6話「狂気の幕開け」/6.5話「戦況報告」(総集編)/7話「フィヨルドの攻防」/8話「火の試練」/9話「前進準備」/10話「勝利への道」/11話「抵抗者」/12話(最終回)「勝利の使い方」/総括
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