ストーリー作りというのは、けっこう難しい。
初心者は、どのように作ったらいいのかわからないし、作っても途中でつまづきやすい。
また、ある程度わかった人でも、真面目に考えれば考えるほど、いろんなことを考えてしまい複雑になり、作るのが難しくなっていく。
そして、作るのがスゴイ嫌になってくるし、お話を完成させることなんて無理なんじゃないかとも思ってくる。特に完璧主義的な人ほど、そう感じるだろう(私がそう。笑)。
そこで、紹介するのが今回の本『「懐かしドラマ」が教えてくれるシナリオの書き方』です。
この本は、「まあ難しく考えないで、いい加減にやろうや!」といった趣旨の本。
通常の本にのっているようなテクニックがズラズラといった内容ではなく、とにかくコレやっとけば「誰が書いても面白くなる」し、「誰でも最後まで書ける」というシンプルなテクニックが、わかりやすく掲載されています。
私は、たくさんのシナリオ学習本をみましたけど、「誰でも最後まで書ける」と思わせる本はほとんどありませんでした。結局は、根性や努力や訓練でないと書けないと思わせる本ばかり(そりゃ、そうなんですけど)。
そんな中でこの本は「ストーリーは考えるな!」とまでいっていて、最後まで書ける気がしてきます。
とにかく、「こんな適当でいいの?」と思ってしまうほど。
それでは、こちらの本について紹介していきたいと思います。
オススメする人
- まったくストーリーを書いたことのない初心者
- 長編を最後まで書けない人
- ストーリーを書いたけど、何か面白くない人
- 努力とか、面倒なことをしたくない人
- テーマがどうとか、テクニックがどうとか思い悩んでいる人
『「懐かしドラマ」が教えてくれるシナリオの書き方』とは
著者は、浅田直亮と仲村みなみ。
浅田直亮は、ドラマやシネマのシナリオライターとして活躍。現在はシナリオ・センターで講師。
仲村みなみは、コピーライターを経て、シナリオ・センターの講師やその他での講師。また、漫画原作、アニメ、小説、ゲーム、テレビなど幅広く企画・執筆活動をしている。
キャッチコピーは「お気楽流のノウハウで、8日間でシナリオが書けてしまう!」。
60年代後半から2000年代までの代表的な「懐かしのドラマ」をお手本に、シナリオの書き方を解説している本となっています。
目次
- STEP1 “お気楽流"主人公のつくり方
- STEP2 主人を動かす「困ったちゃん」
- STEP3 ストーリーを考えるな!
- STEP4 とにかく書き始めよう!
- STEP5 インパクトある「出だし」から、ぐいぐい引っ張るワザ
- STEP6 ハラハラ・ドキドキは、スポーツ中継に学ぼう!
- STEP7 パクろう!
- STEP8 ラストの戦略
本の内容
懐かしのドラマを例として、シナリオの書き方を解説していますが、本で紹介しているドラマは今の若者には古くて、見たことがない人が大半かもしれません。
私は日本のTVドラマはあまり見ない方なので、知っているのはほんの僅かでした。
しかし、そのドラマを知らなくても、伝えたい要点は理解できますので大丈夫です。
「8日間でシナリオができる」といってますが、そこは初めての人には無理かな。
まあ、無理やりはできなくもないけど。
この本の良かったポイントを軽く紹介します。
「困ったちゃん」をぶつけろ!
簡単に面白くして、ストーリーを動かす「困ったちゃん」というテクニック。
その名のとおり、主人公がすっごい困る相手をぶつけるという方法。
ちょっと困るでなく、すっごい困る相手。
例えば、こんな感じ。
- 普通にサラリーマンとして地味に生活をしたいと思ってるのに、たまたま出会った刑事のせいで、国をゆるがす大事件にまきこまれたり
- ある国を憎んでいる主人公が、その国の王女と出会い好きになったり
- 金目当てでヒロインに近づいたのに、ヒロインのこと好きになったり(ローマの休日)
- 主人公は一人ぼっちで過ごしたいのに、人と関わるのはサイコーだよ!とせまってくるヒロイン(ソードアート・オンライン)
- 主人公はクラスのB子ちゃんが好きなのに、転校してきたA子とある事情で恋人のふりをする羽目になったり(ニセコイ)
こんな風に、主人公が困る相手をぶつけることで、簡単にお話が面白くなるし、ストーリーを動かしやすくなります。時にはそれが、そのお話のメインとなる面白さになったり。
とってもシンプルで使えるテクニック。
いろんな映画やドラマ、アニメでも、よく見ると結構このテクニックが使われています。
本ではいろんなパターンの困ったちゃんについて解説してますし、ドラマを例に解説。
この本のテクニックのキモのひとつとなってます。
ストーリーは考えるな!
シナリオ学習本では必ずある「構成」。
大抵は、「構成をしっかり立ててからシナリオを書きましょう!そのために箱書きが…」となりますが、この本は違います。
「構成は、面倒くさいから考えなくていい!」です。なんとも気持ちのいいことでしょう。
つまり、「ストーリーは考えるな!」といっています。
ほんとにそれでできるのか?と疑問に思いますよね。
しかし、ただ2つの要素を考えるだけで自動でできるようになるのです。
A 主人公が最初やらなかった(やれなかった)ことを、やろうと思うようになるための出来事(あるいは事情など)
B 主人公がやろうと思ったのを、やっぱりやらない(やれない)と思うようになるための出来事(あるいは事情など)『「懐かしドラマ」が教えてくれるシナリオの書き方』浅田直亮、仲村みなみ(p.94)より引用
このAとBを組み合わせてストーリーにするだけです。
「ABABAB」とストーリーを展開。順番になってなくてもいいですが。
それで、最後はクライマックスがあるだけです。こんな簡単な方法。構成なんて面倒なものいりません。それで、ストーリーができてしまうのです。
例えば、「はじめてのお使い」風だと。
小さい子供(主人公)が、お使いにいってみたいと密かに思っていた。
で、実際にお母さんに頼まれて行くことに(やろうと思う)
でも、一歩外に出たら怖くなって足が動かない。泣く(やれないと思う)
お母さんの必死の説得!で、しぶしぶ行くことに(やろうと思う)
一度足を踏み出したら、どんどん行ける(やろうと思う)
しかし、お目当てのお店を通り過ぎてしまった。あれ?どこ?(やれないと思う)
戻ってみようと思い、戻ったら通り過ぎてたことに気づき、お店に入る(やろうと思う)
お店の人に注文しようとするが、何を頼まれたか思い出せない(やれないと思う)
そこでお店の人の誘導で、なんとか思い出し、買える(やろうと思う)
買い物ができたと、ノリノリで帰り道を歩く(やろうと思う)
しかし、ウッカリ買ったものを派手に落とし壊してしまう。絶望し泣く(やれないと思う)
とにかく家に帰り、母とあったら後悔の念で激しく泣く(やれないと思う)
しかし、派手に壊したけど、中身は使える。母は子供も褒め称え、お使いは成功する(達成)
こんな感じになります。
全体を考えずに、即興でAとBを意識して簡単なお話を作ってみました。
AとBを繰り返すだけで、ちゃんとストーリーになりましたね。
このように誰でも簡単にストーリーを作れるというテクニックです。
(試しに、別パターンの「はじめてのお使い」を考えてみては?)
ちなみに、先の「困ったちゃん」は母になります。
やっぱり行きたくないのに行かせるわけですし、彼女の期待(買い物)にこたえないと困りますし(笑)
本では、ドラマを例にこのABを使ったストーリーを詳しく解説してますし、ストーリーについては他にもいろんなテクニックがあります。クライマックスの技でも「オチなんていらない!」といってるぐらい。
テーマは考えるな!
個人的に特に感銘を受けた部分は、「テーマは考えなくていい」いうところです。
その頃は、テーマについてどう表現したらいいのか悩んでいた時期でもありましたので、テーマをどう扱うかについて書かれた内容を読んでスッキリしました。
テーマを考えるすぎる人の「落とし穴」についても書いてましたが、確かになと思いました。
また、どうしてもテーマを表現したい人のテクニックも掲載してます。
その方法は「そのテーマに関係する人を主人公にぶつける」というもの(もちろん、困ったちゃんで)。
例えば、ニート問題をテーマにして訴えたい場合は、普通の主人公にニートのヒロインをぶつけたりする。
まあ、ニートの妹とか。ラノベとかではよくありそうですけど(笑)
それによって、ニート問題を自然と描け、表現されるということです。
ちなみに、ここで主人公をニートにすると「落とし穴」にハマる。
テーマ性が強くなりすぎて、重い作品になりがちに。「面白い」とは別になってしまう。
(確かに、ニート主人公の『NHKにようこそ!』の漫画は途中から重かったな…)
おわり
このように、いい加減なテクニックでストーリーが作れる本となっています。
著者の方たちは、シナリオ・センターで講師をしているだけあって、書き手の悩みどころがわかっていますし、実際の講師の経験から説明のうまさを感じます。
特に真面目に考えすぎてしまう人にはオススメですね。
完璧につくろうとすると、アレヤコレヤと考えてしまって、ぜんぜん前に進まなかったりしますし。表現には終わりがないので、テクニックにハマるとひどい目にあう。
いったん、余計なテクニックを忘れて、このやり方でやってみるとスッキリするかも。
また、普通のシナリオ本はやることが多いので、この本のシンプルさは初心者の方にもオススメです。
いい加減(シンプル)なわりに、ストーリーにとっての大事な要素をおさえていますし、なんといってもこのテクニックなら誰でも面白く、誰でも最後まで長編を書けると思いますので。
もちろん、この本だけでスゴイ作品が作れるかは別な話です。
細かい技術などは、やはりもっと深掘りした本を読んだり、いろいろと経験しないとわからないことも。
しかし、この本が大きな一歩となることは確かだと思いますので、ぜひオススメします。
出典:『「懐かしドラマ」が教えてくれるシナリオの書き方』浅田直亮、仲村みなみ(彩流社、2005年)
「短編」を書くなら、以下の書籍が参考となります。